平智之の活動ブログ

【報道ウォッチ13】 国民が決める10兆円の除染と賠償

2013年12月22日 23:51

宅地の仮置き場.JPG 造成した直後に被ばくした宅地が仮置き場になっていた。線量は毎時1.7マイクロシーベルト(年間8.7ミリシーベルト)。それでも随分下がってきたとのことだった。平成25年12月16日平智之撮影


【平智之の報道ウォッチ13】政府が全員帰還の原則を転換するとの報道。適切な方針転換だと思うが、帰る人と帰らない人の公平は難しい。東電の資金支援枠が5兆円から9~10兆円に拡大されるが、それなら細かいルールで除染・賠償をするよりも、20万世帯に対して平均5千万円で合計10兆円を直接被災者に支給する方が公平となるのではないか。

●収束宣言からオリンピックへ
特に西日本には、放射能とともに生活する現場の声が届きにくい。政府が伝えないからだ。3.11が起こった2011年の年末に野田総理が行った「収束宣言」から、先日の安倍総理の「アンダーコントロール宣言」まで、政府は一貫して、「もう終わった」「次へ向かおう」という空気の醸成に努めてきた。

●一方で苦渋の決断の日々
一方で放射線量の高い地域では、帰れるのか?帰ってその後は?避難先で生活を再建できるだろうか?などについて生活者に苦渋の決断を強いる日々が続いている。それが2年9カ月も続いている。3.11以来、原発事故の情報に触れてきた者として、被災地の生活者・地権者と、被災地の情報を持たない国民の間で意識のギャップが拡がっていくことに忸怩たる思いがある。

●住民ゼロの村で行われる除染
一週間前に被災地へ行った。大半が「居住制限区域」(20~50mSv)で人はいない。ここで除染作業が進んでいる。冒頭のとおり、政府は全員帰還の原則を転換したが、それは基本的には原子炉周辺から浪江町に至る年間50mSv以上(毎時に換算すると約9.6マイクロSv以上)の高線量となる帰還困難区域を想定しており、居住制限区域(20~50mSv)や避難指示解除準備区域(20mSv以下)は、年間1mSv以下に下げる努力をする。つまり帰還が前提となっている。

●一律90万円で「早く帰ろう」
だからこそ、今回の福島復興加速指針で「早期帰還賠償一律90万円」が発表されたのだろう。「早く帰ろう」という意思表示が政府によってなされている。政府は環境省、農水省、復興庁等から県を通じて村長、町長とつながる。「早期帰還で村や町の再生」がお題目となって3兆円もの巨額の除染資金が注ぎ込まれる。

●帰らないと決めた場合
すると、小さなお子さんを育てる家族が「帰らない」と決めた場合どうなるか。この点は、このブログをお読みのみなさんに、どうかご想像いただきたい。政府発表によれば帰還が前提の居住制限区域と避難指示解除準備区域の被災者は5万人を超えており、その多くが現在も避難しておられる。

●2階の子供部屋
帰還に際しては子供の生活環境の改善が課題だ。その点を現場で聞いた。実際に住宅1件1件の洗浄が行われていた。大きな庭を持つ屋敷の正面に除染作業者が5、6人見えた。聞くと屋根や側溝の洗浄だという。雨で屋根から流れる汚染水が雨水を受ける樋(とい)で線量を高めるため、2階の樋の近くに子供部屋がある場合が問題。だから特に屋根の洗浄が重要とのことだった。1件あたり数百万円と聞いた。

●除染水がそのまま川へ
しかし除染は難しい。たとえ屋根を高圧洗浄などで押し流しても、除染率が大して高くないうえに、除染水がほぼそのまま川へ流れているとのこと。「除染で流れる水の処理はしないのか?」と聞くと、「除染水の処理について私たち被災地の生活者から提言しているが、まったく聞いてもらえない」とのことだった。住宅さえ線量を下げればいいのか?川は生活圏ではないのか?3兆円の除染事業が住宅のセシウムを川へ流す、いわゆる"移染事業"だとすれば、被災地の生活者が納得するわけがない。帰還には結びつかないだろう。巨大な無駄になりかねない。

●オリンピックは福島とともにある
私は当初からオリンピック招致に賛成できないでいた。今も新国立競技場などの巨大建築について異論もあるが、しかし決まった以上は次代の夢につなげていただきたいと願う。しかし、その夢は国民全体が一緒になって、放射能と向き合う被災地の人々の気持ちを分かち合う前提だ。Fukushimaを引き合いにして得たオリンピック招致権なのだから、オリンピックは福島とともにある。

●本来は福島オリンピック
そもそも、「福島から離れている東京はキレイだ」という発想自体が極めて不謹慎だ。あの安倍総理の演説を聞いて強烈な違和感を持った。本気なら福島オリンピックに切り替えてでも、あるいはメインスタジアムを福島にするなどの計画があってもおかしくないところだ。それでもIOCが認め、日本が覚悟するなら、意義もあったと思う。

●補償・賠償が避難者を苦しめることも
発災当初から政府の近くに身を置き、暴走する崩壊熱の恐ろしさを見てきた者として、もっと現地のお気持ちを伝えたいと思うが、それがうまくできなくて申し訳ない。避難者のなかには、避難先で補償・賠償を受けていることを知られ、周囲から冷たい目で見られることを苦しく思っている方々もおられる。

●住む場所さえ手当してもらえれば
そういう方々は毎月の賠償を喜んでいない。村長や町長が力強く、「今後、10年でも20年でも賠償を求めていきます」と宣言しても喜んでいない。避難先での人間関係が20年もこじれ続けるからだ。2011年冬に被災地で聞いた。「避難先で住む場所さえ手当してもらえば、もう賠償はいいから、あとは自分で働いて生きていきたい」と。帰還したい人もいるが、新しい場所で生きていこうとする人もいる。

●住宅取得の負担は同じ
今回の福島復興加速指針では、原賠機構による交付国債枠が5兆円から9兆円に拡大された。除染費用と賠償に充てられる。しかし、帰宅困難区域の避難者には移住先の住宅取得費が補償されるのに、一方で居住制限区域と避難指示解除準備区域からの避難者には首長の意思決定等により帰還を前提とする除染費用しか賠償されないことがありえる。これでは公平感が生まれない。帰還しない避難者の住宅取得負担は、どこから避難しようが同じである。

●20万世帯に平均5千万円でも10兆円
福島県の帰宅困難、居住制限、避難指示解除準備の各区域の10数万人に、福島以外の10万人以上が属する世帯を加えて20万世帯に対して平均5千万円を現金給付しても最大で10兆円だ。ちなみに復興庁発表(平成25年11月14日現在)では全国の避難者数は約28万人だから20万世帯が目安だろう。各世帯がその5千万円のなかで、帰還して除染する、移住先で家を建設・購入する、貯蓄する、それぞれに任せればどうか。政府は原子力損害賠償機構への資金支援枠を5兆円から9~10兆円に拡大した。その10兆円の使い道をどうするか。数多くの補助事業や給付に細分化して官僚の仕事を増やすよりも、被災者に直接現金給付するほうが公平でわかりやすく納得も生まれるのではないだろうか。そもそも10兆円は国民の負担だ。被災地の実態、避難者の心情を国民に周知し、国民の納得を誘導するかたちで賠償のあり方を決めるようにするのが、この問題における政治の仕事だと思う。

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