平智之の活動ブログ

【報道ウォッチ22】TPP妥結も決裂も戦術的に

2014年2月15日 17:22

TPP米の関税撤廃求めているか?.jpg


TPP交渉打開にむけて甘利大臣渡米の報道。実は日本がコメ市場を開放すると米国は年間約3百億円(平推定)のMA(ミニマムアクセス)米の対日輸出機会を失うリスクがある。ならば米国はコメで譲歩する見返りに他の品目・分野を押し込んでMA米と新しい市場の"両獲り"を狙う方が有益となる。最初からそういう戦術という可能性はないか?


●コメ問題は日米間の交渉点のひとつ
以下は"お米"に対する日本人の価値観、食糧自給問題や食管・食糧制度等を巡る国内制度議論、あるいは海外における短粒種ジャポニカ米の生産可能性などの専門的な議論を含まない限りで、純粋にビジネス的な観点のみで述べることを最初にお断りしておく。すべて仮説だから稚拙な間違いがあるかもしれない。ただTPPの交渉現場では、各国各分野の交渉官が多様なオプションを睨みながら落としどころを探り続けているだろうから、稚拙なまま(あるいは乱暴に)、なんでも起こり得ると思っている。その意味で日米間の交渉点(=決裂点)のひとつであろうコメ問題から見える私のTPP交渉への懸念を述べておきたいと思う。

●日本は毎年コメを輸入している
周知のとおり日本は米を輸入している。20年ほど前の1993年(たまたま細川政権)のガットウルグアイラウンド、そして1998年WTOでの関税化容認を経て、現在では日本の高い関税率を認めてもらう代わりに最低限のコメ(ミニマムアクセス米:通称MA米)の輸入を世界のコメ輸出国に対して保証することになっている。(このへんは解釈が間違っていたらご指摘いただきたい)

●米国が最大の輸入元
MA米はいまでも目標数量に基づいて粛々と輸入されている。図に示すとおり、なぜか米国から毎年同じ数量(36万玄米トン)が輸入されており、それは輸入数量全体の約半分にも達し、円ベースでは約300億円(5年平均)にもなる。実は米国がMA米の最大の輸入元になっている。(この点も事実誤認があればご指摘いただきたい)

●自分が米国の立場なら
荒っぽい議論だが、純粋にビジネスライクに考えて、もし私が輸出倍増計画を標榜するオバマ政権のTPP担当者の一人ならば日本のコメ関税を継続させる選択肢を念頭に置く。特例的なMA制度のおかげで毎年約300億円ものコメが日本に売れている。そもそも入札でなぜ米国から毎年同じ数量が調達されているのか。随契の調達に近く競争的とは思えない。もし日本政府が米国のために管理して36万トン買ってくれているとすれば、こんなに優良なクライアントを、TPPで市場開放などさせて、わざわざインド、ベトナム、タイなどの競合相手に渡すリスクは取らない。債務上限法に苦しむ米国からすれば、毎年約300億円の米産者補助金を節約できる効果は無視できない、と私なら思う。

●米国は"両獲り"を狙っている?
以上の前提でさらに想像すると、米国としてはTPP交渉のフロントでコメ市場の関税撤廃要求を粘るだけ粘り、日本が断固拒絶するならば、「断腸の思いで仕方なく」という演出で日本の要求を受け入れ、"仕方なく"関税の継続を認める。その見返りとしてコメ以外の農産品や保険等のサービス分野で徹底的に日本から譲歩を引き出す。そうすれば米国の「MA米の売上維持」と「新しい市場」を"両獲り"することが可能となる。

●「日本をTPPから外せ」の要望
コメ市場の開放要求はバネであり、このバネが強いほどコメ市場の開放要求をテーブルから下した時の見返り(MA米輸出額と新しい市場の規模)は大きくなる。だから粘るだけ粘る、という仮説だ。なにもかもが戦術的だろう。その証拠に昨年2013年末、米国の主要17農業団体が「農業分野で自由化に応じない日本はTPPから除外すべき」という要望書をUSTRに提出し、そのなかに米ライス連合会も含まれていた。矛盾する。米豪FTAでは砂糖と乳製品を例外化し、さらに牛肉のセーフガード導入でオーストラリアの農業に煮え湯を飲ませた米国の農業団体とは思えない要望だが、だからこそ戦術的なのだろう。もし日本がTPPから外れたら、米ライス連合の会員は「MA米の権益」を守れるし、もしコメだけ例外を認めたら、その他の農産物で速やかな自由化を強要できるテコが働き、コメ以外の米国農業団体にもメリットが及ぶかもしれない。

●ベトナムとマレーシアの"待ち"の戦術
日米間の戦術的な緊張関係は日米間以外の交渉参加国にも及んでいる。たとえばベトナムとマレーシアがうまく動いているかもしれない。以前から両国はGDPで8割を占める日米両国の交渉が妥結しない限り、自国の主張を譲歩しないと言っているが、これも戦術的な可能性がある。ベトナムは国営企業が持つ参入規制を根底からは取り払えないし、マレーシアも通称ブミプトラ政策(マレー人を経済的に優遇する国策)の商習慣や利権を急激には変えられないだろう。日本の行政改革と同様、表面では自由化と言うがそう簡単にはいかない。だから米国が戦術的に日本のコメ市場で譲歩するのを待ち、譲歩姿勢を見せるやいなや「ならば我が国にも譲歩を」と主張する機会を待っている、とも考えられる。

●「例外なき関税撤廃」も一枚のカード
冒頭に断ったとおり、以上に述べた仮説が正しいかどうかはわからない。絶対に日本のコメ市場を開放させるという前提で、異なる戦術的な緊張関係や均衡点があるかもしれない。ただ確実なのは当たり前のことだが「すべてが交渉」という点だ。交渉だからお互いに読み合いをしている。日本の交渉官も相手の利得表を読み続けている。「例外なき関税撤廃」というスローガンすら戦術の一部だと私は思っている。本当に例外を許さないか、一部譲歩するかは、プラスマイナスでプラスになる国(マイナス予想が小さくなる国)が一番多くなる妥結点(パレート最適みたいなもの)で決まるだろう。

●TPPより大きな流れで見る必要
だとすれば、それはTPPにおける日米間のコメ問題はおろか、TPP問題そのものを超えるはずだと思っている。私はもともと日中韓をハブとするアジア経済圏の形成を重視する論者だが、そのためにもTPPそのものをひとつのカードにするくらいの発想が必要だと考えている。米国の譲歩を引き出して"緩やかなTPP"を実現するにしても、あるいは日米間TPP交渉決裂であっても、その後にアジア経済圏の成長をいかに日本経済と連動させるか(アジアの内需化)というシナリオプランニングが必要だという認識だ。

●いろいろやってみる
すでにアジアを含む経済連携構想はCEPEA、TPP、FTAAP、RCEPなどが相互に関係しながら様々に提示されてきた。どの構想が一番いいかという原理的な議論は成立しないだろう。すべてを同時進行で動かしながら、決裂したり、再開したりしながら、うまくいくものを探るということだろう。たとえばインドからすれば、日本がTPP参加表明後に日中韓FTAの研究会が動きかけた事実にこそ注目しただろう。「ならばインドも、たとえ中国が存在するとしてもASEAN+6に乗らねば」と思ったかもしれない。そうやって様々な構想が関係しながら動いていく。

●TPPは決裂するにしても戦術的に
巷間心配されているような国民皆保険制度の破壊や遺伝子組み換え食品の非表示化問題など、日本が許容できない事態を起こすような要求を持つならTPP交渉は当然に決裂であるが、しかし重要なのはTPPそのものがカードである、「例外なき関税撤廃」すらもカードである、という姿勢が重要だと言う点を述べておきたい。TPPが本日からの日米間の大臣級折衝で決裂しても、それは戦術的に次につながる決裂でなければ交渉とは言えない。ここは交渉を担う官僚の汗と能力に期待する。

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