平智之の活動ブログ

【報道ウォッチ32】 吉田所長は住民避難を求めていた

2014年8月20日 01:29

吉田所長の住民避難.jpg

●撤退は許さない
 吉田調書を巡る報道が続く。菅政権の頃、「福島第一から撤退する」という吉田元所長(故人)の発言があったとの報道がなされ、それに対して「撤退は許さない」「撤退したら東電は百パーセント潰れる」という菅総理(当時)の発言があったとの報道がなされた。しかし今、新聞社が入手した吉田調書に「撤退という言葉は使っていない」という主旨の吉田元所長の言質が残されているとの報道がなされている。

●言葉ではなく内容
吉田元所長の言葉も菅元総理の言葉もそれは報道の限りで実際の言葉も経緯もわからない。しばしばこのような報道では言葉ではなく内容を考える必要がある。当時の報道は、「東電の撤退で炉が放置されかねなかったが、それを総理が食い止めた」という印象の流布だった。強烈な報道だったと思う。炉が放置されたら東日本全体が脱落していたかもしれない。そのような結果に至る判断を吉田元所長がしていただろうか。現場の所長を含めて全員で撤退などという決断をするだろうか。

●10条通報に残っている
実は吉田元所長が発災直後にどのような思いであったかについては証拠がある。原子力災害特別措置法(原災法)に規定される10条通報(原子炉に異常な事態(特定事象)が生じた場合に現場所長から各関係機関に通報する義務)の原文が公表されている。(下図参照)

●住民の避難を求めていた
3.11発災直後、吉田元所長は10条通報のなかで次のように書いている。
「地域住民に対し、避難するよう自治体に要請の準備を進めております」(上図参照)
吉田元所長は炉周辺の住民を守ろうとしていた。

●自分が所長だったら
10条通報は、経産省、文科省、福島県、原発立地の近隣地町村をはじめ関係機関に一斉に発出される。吉田元所長は自分の考えを原子力関係のすべての人々に周知していた。自分が吉田元所長だとしたらどうだろう。「地域住民を守る」と公言する自分が「自分も含めて全員の撤退」を考えるだろうか。みなさんも自分を当時の所長だと仮定してご想像いただきたい。

●「現場を見に来て下さい」という吉田所長
元所長が最低限の人員以外の退避を指示された可能性は十分にあるが、炉を放置するような全員の撤退を指示されたとは私には考えられない。2011年、政府・東電統合本部で一度だけ吉田元所長にお会いした。毎日朝10時の東電本社会議に来られた。会議中、一言も発言されなかったが、お帰り際に言われたことは「現場を見に来て下さい」の一言だった。非常に実直な印象を思い出す。全面撤退という印象を与える当時の報道はどうしてもミスリードに思える。だから「それを食い止めた不退転の総理」という印象の報道にも強い違和感を感じる。

●「自治体への要請」とは
1点だけ気になることがある。10条通報にある「避難の自治体への要請」はあったのか。あったとすれば、どのように扱われたか。官邸からの避難指示は3.11の21時前に半径2km以内で出たとの記録があるが、現場所長から福島県や近隣市町村に直接「逃げろ」の要請があったとしたら、それを当該自治体はどのように扱っただろう。原発災害時におけるオフサイト対策として重要な教訓のはずだ。


10条通報全体.jpg

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