平智之の活動ブログ

「働く自由」に向けたベーシックインカム(BI#4)

2015年2月 6日 16:53

二つのアプローチ.jpg


平智之講演会『ベーシンクインカムを考える(第三回)』(2015/1/31)の内容をスライドごとに解説(その4)


●「格差」と「自由」という二つの立場
二つの立場を考えたい。格差を是正する、あるいは脱貧困のためにBIが必要だとする立場と、働く自由を生み出すうえでBIが有意義だとする立場と。実際にBIが施行されたら、人それぞれの事情で脱貧困に役立つ場合もあれば、働く自由に有効となる場合もあるだろう。BIを受け取る人によってとらえ方が変わって当然だが、制度を考えるうえでは、どちらをより優先するかが重要となる。

●ブラジルのBIは脱貧困から
ブラジルではすでにベーシックインカムの基本法が施行されている。皆さんもご存じのとおりブラジルは貧富の格差が非常に大きい国。富裕層(1%)と貧困層(50%)の世帯収入合計が同じという統計もある。そこでブラジルは以下の原則を求めるBIの基本法を施行している。
・すべての国民(及び最低5年以上居住の外国人)を対象とする
・収入に関わらず受給できる
・生活(食糧、教育、健康)に最低限必要な金額とする
・BIは所得税で非課税とする
しかし財源が足りないので、まずは"所得制限あり"の子ども手当からはじめている。貧困層の子どもたちを救うのだ。(注:貧困家庭にBolsa Familiaと呼ばれるカードが配布され、子どもの人数に応じて現金が給付される。主として食費に使われているという調査がある。)

●スイスのBIは自由から
一方スイスでは、BIの実施に関する国民投票が連邦議会で審議中とされている。日本は憲法改正に関してのみ国会発議で国民投票を実施できるが、スイスではたとえば国民が「BIを導入して欲しい」というイニシャチブを宣言し、18か月以内に10万人以上の署名を集めて連邦議会に提出すると、議会で国民投票実施の審議をしなければならないそうだ。つまり国民投票に関して日本は議会発議でスイスは国民発議となる。そしてそのイニシャチブが一昨年(2013年10月)に十数万筆の署名とともに議会に提出されたとのこと。内容の大枠は国民一人あたり(成人)に1カ月あたり2,500スイスフランを無条件支給するというもの。スイスの平均年収は約9百万円なので為替レートと購買力平価などを大雑把に勘案すると日本円では1カ月当たり15万円程度になる。ブラジルに見る脱貧困のニーズというよりは、働く自由に対する要求がより強いように思う。(注:ところでスイスでは2013年11月に「1:12イニシャチブ」が国民投票に付された。年収格差を12倍以内に収めることの是非を問うた。約65%vs35%で否決されたが、格差についても非常に高い関心がある。)

●完全BIと部分BI
さて、ベーシックインカムについて格差と自由の二つの立場があるとすれば、私は「働く自由」から考えてみたいと思っている。つまりスイス型だ。ただしスイスの市民案のように月15万円の規模はとても難しい。日本の成人は約1億人で、もし一人15万円を毎月給付すると年間180兆円の財源が必要となる。現在、日本の年金と児童手当が60兆円弱だからその3倍。これはとても難しい。15万円が理想的な「完全BI」だとすれば、私は金額はそれよりも少ないが実現性が少し高まる「部分BI」を皆さんと考えてみたいと思っている。議論のために、成人が月5万円、子どもが月2万5千円とする。

●「働く自由」に向けたベーシックインカム
重ねて、国民一人当たり、月15万円を給付するとどんな社会になるかを想像してみるのは非常に意義深い。子ども、高齢者、障害者を含めて、もしすべての国民が貧困から解放されたら、その場合に労働観はどうなるか、それでも自由競争による格差が問題になるのかなど。しかし政治の議論としては、たとえ部分BIであっても、実現により近づける方向を探りたい。部分BIといっても、大人2人、子供2人の世帯なら合計で月15万円のBI(ちなみにスイスBI案ならば月30万円)になる。結構な額だ。すると、たとえば「農業に関わりたいので今の仕事をやめたい」とか「地域活動にもっと時間を割きたいので就労時間を短くしたい」とか「大学院に進んで勉強を続けたい」など、自分の社会環境が変化するときに余裕が持てる。さまざまな「働く自由」が期待できるかもしれない。ちなみにトマス・ペインは「農民の正義」(1797)のなかで高齢者の年金に加えて「若者の就職準備金」のような最低限所得保障の重要性を書いているとのこと。各自が求める仕事に向かっていく姿勢を社会が応援するしくみとしてBIを考えられないか。

ページの先頭に戻る