平智之の活動ブログ

「NAFTAのISD条項による訴訟で米国は全勝だ」について

2015年5月 5日 02:54

ISDで米国勝率は3割以下.jpgクリックで画像が大きくなります


●米国はISD訴訟で全勝?
私はかねてより、ISD条項に基づくNAFTA内の過去訴訟で米国が全勝していると主張する方に「米国は敗訴もしているはずだ。」と伝えてきた。すると先日、旧知の知人が「しかしネット上では米国全勝というのが常識になっている」「それを信じて私もそう主張をしてきた」「平さんが間違えているのではないか?」との指摘を受けた。

●平さんに挙証責任がある
私はその方に「NAFTAの紛争情報などは公的情報なのでネット上にあるはずだからご自身で調べたらどうか?」と聞いた。しかし「自分は米国の全勝を信じているから、違うと言うなら平さんにその挙証責任がある。調べて私に示してほしい。」との指摘をもらった。

●信じているから調べない
私は何度か聞き返した。「信じているから調べないというのは納得できない。」「ご自身がネット上のブログ等で見た情報を正しいこととして他者に伝えはじめ、もしそれに対して異なる見解を述べる人がいたら、その異なる見解を述べた人に証明を求めるよりも先に、まず伝え始めたご自身がその主張の真偽を確かめるのが筋ではないか。」と。しかし何度聞いても「自分には調べられない。」とのことだった。そして「平さんは元議員なのだから私よりも調べる力があるだろう。調べた結果、もし私が間違えているなら、他の多くの人も間違えているから、それをネットで広く公開すべきだ。」とのご意見。挙証責任は納得しないが「他の多くの人も間違えている」という指摘は見逃せない。

●テレビ番組の米国全勝報道
そこで本ブログを通じて米国全勝説の流布と公的情報の両方を調べてみる。まず米国全勝説については、その知人から受け取った第三者のブログ出力に証拠があった。過去のテレビ番組の画面だ。「NAFTAのISD条項における訴訟件数と結果」(本ブログ最上段の左図参照)と題して、カナダが米企業に対して28件全敗、メキシコが米企業に対して19件全敗、米国が両国に対して19件全勝という紹介になっている。知人はこの情報を信じておられるのだろう。

●公的情報では全勝どころか勝率は3割に満たない
次に公的情報を調べた。『国家と投資家の間の紛争解決 (ISDS)手続の概要』(平成24年3月、外務省、経済産業省)という資料が見つかる。この資料p8で「NAFTA(1994年発効)における投資仲裁」(本ブログ最上段の右図参照)がまとめられている。ご覧のとおり、米国企業はカナダを15回訴えて2回、メキシコを14回訴えて5回しか勝訴していない。つまり29戦7勝だから米国企業の勝率は3割にも満たない。

●米国全勝と言うのは無理がある
逆にカナダ企業とメキシコ企業から訴えられたケースで確かに米国政府は一度も敗訴していない。しかしすべて勝っているわけではない。15戦7勝5分け3試合中だ。外務省と経産省の情報に間違いがなければテレビ番組の米国全勝の情報紹介は誤報となる。米国企業がNAFTAで賠償を勝ち取ったのは件数ベースで3割に満たない。にも関わらず米国は訴訟したらすべて勝っているというような誤報(あるいは印象操作)に基づいて「ISD条項が極めて不平等な制度で米国に圧倒的に有利なしくみだ」と言ってしまったらTPP反対論の信頼性を著しく損なう。もしネット上などでISD条項による訴訟の米国全勝説を唱える方がいたら「どのような意味で全勝と言っているのか?」「外務省、経産省の情報をどう見るか?」をネット上で問うて欲しい。

●ISDに慎重な立場
ここまで書くと、私がISD条項の導入に賛成であると思われるかもしれないが、そんなことはない。確かに1978年の日エジプト投資協定以来40年近くにわたって運用実績を有するISD条項であるが、それらは二国間協定での実績であり、TPPのような多国間協定での実績はほぼないのではないか。だとすれば日本が好まない特則や著しい片務性が盛り込まれないか注意する必要を感じる。極めて慎重な立場だ。

●正しい事実と適切な分析で
ここで申し上げたいことは反対論であれ賛成論であれ正しい事実と適切な分析に基づいて展開したいということ。米国企業が件数で3割も勝訴していないのにまるで全勝しているかのような誤報(あるいは印象操作)によってISD条項の問題点を指摘し、そのうえでTPP反対論を展開しても信頼性がない。「とにかく反TPPを増やせばいいから少々事実の歪曲があっても(あるいは事実確認がおろそかであっても)どんどん反対意見をネットに流そう」というような姿勢が万一あるとすればそれは反TPPの主張を大きく棄損する。民主主義にとって極めて貴重な反対意見を大切にしたい。同様のことを以前私のブログに書いたので以下に再掲したい。

●反対運動が注意すべきこと
2015年4月5日の平智之ブログより抜粋)たとえば原発、集団的自衛権、TPP、特定秘密の問題について「反対だと思っているが反対運動には参加しない人々」(多数派)から「反対運動」(少数派)が特殊な集団だと見なされる危険性に注意しておく必要がある。しばしば反対運動が「反対ありき」の運動に見えるので「反対運動しない多数派」はとても近づき難い。議論が拒絶されているように見えるからだ。多数派が近づかなければその反対運動は政治に接続しない。民主主義にとって大切な反対意見が無為となってしまう。運動と政治が異なるという点は決定的に重要だ。(賛成であれ反対であれ)民主主義には技術がある。その技術も民主主義の実践的な教育の対象ではないか。

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