平智之の活動ブログ

報道ウォッチ

【報道ウォッチ28】 ヘーゲル長官は歓迎か?支持か?

2014年4月20日 01:20

ヘーゲル長官 歓迎と支持.jpg

4/5日経新聞(Web刊)に「集団的自衛権の行使容認 米国防長官、支持を表明」との見出し。しかし米国防総省公表のヘーゲル長官回答には集団的自衛権について「Welcome(歓迎)」とあるが「Support(支持)」はない。歓迎は支持でも賛成でもない。ミスリードではないか。


●WelcomeとSupportの違い
外交における英単語のニュアンスの違いに詳しくはないが、一般的にWelcomeとSupportの意味はかなり異なるだろう。集団的自衛権の行使容認の議論についてWelcomeと言えばせいぜい「どうぞ議論して下さい」「議論することは有意義だ」という程度の意味であり、「容認賛成」とまでは拡大できない。一方Supportと言えば、それは米国が積極的に行使容認を後押しするのであり、ほぼ「容認に賛成」という意味になる。

●記事中には「支持を明言」とまで
見出しは「支持を表明」としており、さらに記事中ではヘーゲル長官が「支持を明言」とまで書いている。これはもう米政府が日本の集団的自衛権の行使容認に賛成しているという報道ではないか。

●米国があからさまな行使容認は考えられない
日中、日韓の関係修復を期待し、安倍首相の靖国神社参拝にDisappointed(失望)した米国が、あからさまに集団的自衛権の行使容認を支持することは常識的には考えられなかった。報道当初から気になっていたので調べてみた。

●米国防総省が公表するヘーゲル長官回答
米国防総省の報道機関であるThe Defense Media Activity公表文(American Forces Press Service記事)で日経新聞社に対するヘーゲル長官の回答を調べた。WelcomeとSupportが使われている部分を抜粋すると以下のとおり。

The United States recognizes Japan's long-standing commitment to regional and global peace and stability and we welcome(歓迎する) Japan's efforts to play a more proactive role in the Alliance, including by reexamining the interpretation of its Constitution relating to the right of collective self-defense. (集団的自衛権に関する憲法解釈を再検討すること)

We also support(支持する) expanding the role of the Japan Self Defense Forces within the framework of the Alliance(日米安保の枠組みにおける自衛隊の役割拡大), investing in cutting-edge capabilities(cutting-edge(前方展開?)能力への投資), improving interoperability(日米合同作戦能力の向上), modernizing force structure(実力の近代化), and adapting Alliance roles and missions to meet contemporary and future security realities(現在と将来の有事に対応する安全保障の役割と使命の採用).

●SupportではなくWelcome
ヘーゲル長官の回答文(上記)を見る限り、集団的自衛権の行使容認については憲法解釈の議論をWelcome(歓迎)しているがSupport(支持)しているとは読めない。ましてや「支持を明言」とはとても読めない。

●各紙を並べ読みすること
どうも微妙だと感じる報道については、各紙を並べ読み、比べ読みすることが大切である場合が多い。参考までにヘーゲル長官が行った集団的自衛権の行使容認(に向けた議論)に対する発言について各紙の報道を上図にまとめる。「Welcome(歓迎)」との報道が多い。歓迎は支持や賛成ではない。最後にもう一度、現今の極東情勢を考えて、公式に米国政府が日本の憲法解釈の変更をSupport(支持)すると明言するとは考えにくいという点を述べておきたい。支持したいと考える研究機関や識者が米国にいることは別である。

【報道ウォッチ27】 再稼働より海外の石炭火力の高効率化

2014年3月27日 03:59

再稼働より海外石炭火力.jpg


与党が新エネルギー基本計画に「原発は低炭素」を追加との報道。CO2抑制のために再稼働の意図。しかし空はつながっている。日本が再稼働で抑制できるCO2は世界のわずか0.3%。むしろ海外の石炭火力の高効率化に貢献すべき。


●「CO2出さない原発が必要」論
「原発はCO2を出さない」「火力を増やすとCO2が増えるから再稼働も仕方ない」という意見がある。「CO2を出さない」はそのとおりだが、「再稼働も仕方ない」には合理的な理由が見当たらない。政府は国民にきちんとした事実とデータを提供すべき。

●放射能とCO2は比較できない
「再稼働も仕方ない」が不合理な理由は二つある。ひとつは、そもそも原発事故による放射能災害で生じる土地と人体に対する甚大なリスクをCO排出抑制のために容認できるのか?という観点。1979年スリーマイル、1986年チェルノブイリ、2011年福島第一と10年に1回過酷事故が起こっている。40年稼働の原発が国内外で増えていくから事故リスクは高まっていく。地球温暖化も致命的だが放射能災害も致命的。比較できる根拠がない。

●空はつながっている
もうひとつは、世界で排出されているCO2が2013年で360億tにも達するとの試算(グローバル・カーボン・プロジェクト)があり、日本の火力炊き増しによる増加分(約1億t、平試算、上図)など世界全体の0.3%に過ぎないという観点。空はつながっている。日本の0.3%を抑制して放射能災害のリスクを抱えるより、世界のCO2排出抑制に貢献する方が理にかなっている。

●中国のCO2対策の方がはるかに重要
たとえば中国への技術協力。環境省公表データによると日本の年間CO2排出量は12~13億t。対して米国と中国だけでも年間およそ120億tも排出しており、2国だけで日本の10倍にも達する。技術移転等により中国の石炭火力発電所のリプレイスメント(高効率化)に尽力する方がはるかに効果的だ。日本の原発再稼働によるCO2抑制の何十倍も効果が見込める。京都メカニズムが中座する今、日本から強く働きかけて、たとえば日米中の環境協力体制を構築することは環境にも成長戦略にも有効だろう。

注)中国はかねて環境技術の連携を日本に要請しているが、日本側が技術リークなどを懸念して二の足を踏んできた。

【報道ウォッチ26】 データが使われない、捨てられる

2014年3月12日 06:18

SPEEDI試算結果図.jpg

福島県が事故直後に削除したSPEEDI試算結果(3/15、18時、2号炉、ヨウ素)


福島県が管理する敷地外14か所のモニタリングポストで事故直後の放射線量が20秒毎に記録されていたと判明。管理者が利用できなかった。事故直後のSPEEDIデータ削除と同根の人災。過酷事故ではデータが使われない、捨てられる。


●14か所のMPで20秒ごとのデータ判明
NHKの取材により福島県が管理するモニタリングポスト(MP)のうち、福島第一原発の敷地外14か所のMPで事故直後の20秒ごとの詳細な放射線量データの存在がわかった。今後の詳細な分析が待たれるが、昨日3/11のNHK報道では、原子炉北西5.6kmのMPで1号機爆発の1時間前にピーク値が観測されていたという。

●役に立たなかったMP
NHKによれば、1号機が爆発した3/12、15時36分の約1時間前にあたる14時40分40秒に4.6mSv/h(最大値)を記録した。これは自然放射線を除いて、8時間屋外16時間木造家屋内と仮定すれば年間29mSvに相当する。このデータが避難等の役に立たなかった。詳細は番組で放送される。

●SPEEDIデータも役に立たなかった
データが役に立たなかった点はSPEEDIも同じだった。当時大きなニュースになった。福島県災害対策本部が事故発生翌日3/12の23時54分から受信がはじまった(県の見解)SPEEDI試算結果の電子メールを削除していた。その検証報告が県HPで公表されている。以下参照。

「SPEEDI電子メール削除問題について」


●なぜ保管しなかったのか
報告によれば86通受信したSPEEDI試算結果のうち65通を消失したとしているが、県が国から送られた緊急の電子メールを削除するだろうか。たとえ当時の担当者が混乱により要不要の判断がつかなかったと仮定しても削除までするか。報告では削除した65通以外の20通はUSBに保管、1通は印刷している。ジャンクメールだとは判断していない。なぜすべて保管しなかったか。

●迅速な避難指示が出せたはず
削除したデータのうち15日夕刻の2号炉からのヨウ素拡散の試算結果を上図に示す。15日は早朝に2号で異音が発生し、4号が爆発した。敷地境界のMPでも高い線量が計測された。図からわかるとおり風は北西(内陸部に向けて)に吹いており、降雪中の風下は明らかに危険だった。文科省原子力安全技術センターは法に基づいて情報提供しており、危険を察知するためのデータはリアルタイムに政府から県および関係市町村に送信(電子メール、FAX等)されていた。しかし県はそのデータ削除していた。データを利用していればより迅速な避難指示が出せたかもしれない。(注:市町村側でメール不達、FAX受信不能もあったとされるが、県災害対策本部から関係市町村に周知する方法はなかったか等が問われるところ。)

●人災は根絶できない
装置であるモニタリングポストは放射線量を計測し、シミュレーションソフトであるSPEEDIは風向きを示していた。しかしその放射線量も風向きも利用者である人間が利用しなかった。何万箇所にモニタリングポストを設置しても、何十万回SPEEDIで風向きを知らせても意味がない。混乱によるうっかりミスであっても、混乱を避けるための隠ぺいであっても、いずれも許されないことだが、いずれかの理由でデータの不使用が起こった。人災だ。装置をいくら世界最高にしても人災は防げない。

●世界最高水準の規制基準の無意味
このブログで何度も述べているが、いくら規制基準の世界最高水準を目指しても意味がない。「安全性の向上」にはなっても「安全の確保」には至らないからだ。大規模な放射能漏えい事故は1回たりとも起こせないのに過酷事故の発生確率はゼロにできない。ベントもポンプ車も防潮堤も電源も、なにをしても過酷事故を「起こしにくくする」に過ぎない。世界最高水準でも事故は起こる。一昨日3/10、日本記者クラブで行われた3人の事故調査委員長(国会、政府、民間)との対談で前NRC委員長のグレゴリー・ヤツコ氏が「事故は起こるものだという理解を持つべき」という趣旨の発言をしている。

●世界最高水準の人間も無意味
ここに人間の不確実性が重なると制御不能となる。データがあっても使わない、装置があっても操作を間違える、そのような人間の性質は制御できない。教育訓練で事故に適切に対処できる有能な人間を育成するという主張もあるが、それは世界最高水準の人間を追求するのと同じだろう。

【報道ウォッチ25】 日本を危険にさらす紛争当事国への武器輸出

2014年3月 3日 23:45

CEAPAD写真.jpg

3月1日「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合」(CEAPAD)第二回会合


政府はパレスチナ開発に2億ドルの支援を表明しながら一方で武器輸出規制緩和によりイスラエルへのF35部品供与に道を開こうとしている。一方にお金で一方に武器。武器輸出だけよりも更にアラブと世界の信用を失う。


●F35(次期ステルス戦闘機)の部品
現在、武器輸出三原則のひとつである「紛争当事国に武器を輸出しない」という条件により日本はパレスチナの紛争相手国であるイスラエルに武器輸出できない。ところが政府は、経団連防衛生産委員会からの要望もあり、成長戦略の一環だとしてこの紛争当事国規制を外すという。するとイスラエルへのF35(次期ステルス戦闘機)の部品供与が可能となり、アラブ諸国の大きな脅威になることが懸念されている。

●パレスチナ開発に約200億円
一方で政府は一昨日(3月1日)、安倍政権誕生直後(2013年2月)に日本主導で立ち上げた「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合」(CEAPAD)第二回会合の場(ジャカルタ:上写真)で2億ドル(約200億円)をパレスチナ開発に拠出すると表明した。「アジアが協力して中東和平に貢献」という主旨だ。

●一方に武器で一方にお金
こんな話が通じるだろうか。日本の成長戦略(輸出増)のためにイスラエルに武器を輸出し、その一方で、脅威にさらされるパレスチナに対してはキャッシュを払っておくというやり方をアラブの人々はどう思うだろうか。(下図)

●情に厚いパレスチナの人々
実はユダヤの人々と同様にパレスチナの人々も米国をはじめとした先進諸国の各層に存在する。知人から得た印象だが国際的で勤勉で誇り高く情に厚いパレスチナの人々がこの点を見逃すとは思えない。

●なぜアラブの人々が日本に友好的なのか
確かにアラブの人々の日本への友好意識の背景には経済援助もあるだろう。パレスチナだけでも93年から昨年までの支援額は約13億ドル(約1300億円)に達している。しかしそれよりも日本が中東和平問題に「武力介入してこなかった」ことが大きいとされる。

●平和国家の日本人が言うなら
たとえばアフガン紛争当時の日本の国連平和維持軍武装解除部長(伊勢崎賢治氏)は「唯一、武力介入しなかった日本だったからこそ現地のアフガン人武装勢力のところへ丸腰で赴いて武装解除を実現させることができた」という主旨のことを述べている。「平和国家の日本人が言うなら」というイメージが紛争地にも定着している。これは戦後の日本外交が培った成果であり、武力では獲得できない交渉力という点で欧米にはない財産だろう。

●戦後平和外交の廃棄
しかし今、日本はその財産をあっさり放棄しようとしている。イスラエルへの武器輸出を解禁したら、アラブ社会における平和国家日本というイメージは崩れ、これまでの外交努力が育ててきた中東和平推進者というポジションを失う。紛争当事国に対する武器輸出は日本の安全保障を担保する平和外交の強力な切り札を捨て、日本を危険にさらすという点を深刻に考えるべきだ。


CEAPDスピーチ.jpg

【報道ウォッチ24】 住民が政府と電気事業者に情報請求できるしくみ

2014年2月21日 22:21

規制委設置法に情報公開規定.jpg

附則第六条(政府の措置等)


菅元首相の質問主意書で「規制委が地域住民の安全確保に関与しないことが判明」との報道。実は規制委設置法の附則に「住民と政府と電気事業者の情報共有規定」が埋め込んである。これを履行すれば政府も事業者も住民からの情報請求を拒めない。

●菅元首相と規制委設置法
原子力規制委員会置法は野田政権で立法された。だから菅元首相は規制委設置法がいかにずさんに立法されたかを現場で見ておられなかったものと思う。質問主意書でご確認になったことはそのとおりだ。規制委は相変わらず炉規法の順守機関であり、炉規法とは平時も有事も原子炉を守る法律であって住民を守る法律ではない。

●情報共有の規定を埋め込んである
しかし、そのことは規制委設置法立法過程の当初からわかっていた。そこで附則に次のような規定を盛り込んである。

-------------------------------------------
(政府の措置等)第6条第8項に8  政府は、東日本大震災における原子力発電所の事故を踏まえ、地方公共団体に対する原子力事業所及び原子力事故に伴う災害等に関する情報の開示の在り方について速やかに検討を加え、その結果に基づき必要な措置を講ずるとともに、関係者間のより緊密な連携協力体制を整備することの重要性に鑑み、国、地方公共団体、住民、原子力事業者等の間及び関係行政機関間の情報の共有のための措置その他の必要な措置を講ずるものとする。
-------------------------------------------

本附則を履行すれば政府も電気事業者も住民からの情報公開要求を拒否できない。地域住民(立地自治体、近隣自治体、被害地元をすべて含む)の安全確保に対する要求がダイレクトに政府と事業者に及ぶしくみが作れるだろう。

●法により情報共有機関が設置されているべき
附則はもちろん法律であり「速やかに」は重い。慣例上、「速やかに」は1年程度であり、もうすでに情報共有機関が設置されてしかるべきところだが、まだ議論の経緯すら聞かない。本附則は当時与党内に設置された規制庁設置法検討小委員会の川内博史委員長と副委員長の私が起案したものだった。

【報道ウォッチ23】 もんじゅ、再稼働と言わずに再稼働する計画

2014年2月17日 15:30

消滅処理の閣議決定.jpg

自民党政調会長がもんじゅで消滅処理(毒性の強い放射性核種に中性子等を照射して半減期の短い核種に変換)の可能性を検討と発言。疑惑の研究である以上にもんじゅの運転が問題。消滅処理と称してもんじゅを再稼働することになる。

●専門家がムリだと明言
以前、消滅処理について核物理の学者に聞いたところ
(1)有害な放射性核種だけを純度高く取り出せるのか?(困難かつ危険)
(2)ぶつける中性子はどこから出てくるのか?(発生場所で余計に放射能を生産するだけ)
(3)照射したら別の有害物質も出てくるはずだ(収支が合わない)
というような主旨で"困った発想"だと表現していた。

●再稼働と言わずに再稼働する計画
今回の自民党政調会長の発言は、上記(2)に関係するが、「中性子を得るため」と称して「もんじゅを運転する(再稼働する)」ことになる。もんじゅについては、このままでは世論の反対で再稼働できないので、再稼働とは言わずに消滅処理(または核変換処理)という専門用語を使って実質的には再稼働するという意図が読み取れる。「放射能を減らす夢の研究だ」として再稼働という言葉を隠すのだ。

●もんじゅの廃炉コストが跳ね上がる
もし、消滅処理の研究でもんじゅを運転すれば、中性子を作るためだけに、またしても炉内に大量の放射能を生産することになる。当然、もんじゅを現況のまま廃炉するのに比べて廃炉費用は格段に跳ね上がる。それも目的なのだろうか。これ以上放射能の在庫を増やさずに、現在ある使用済核燃料と汚染済み原子炉を廃炉・除染することに経済合理性があるのに。

●民主党政権下で閣議決定
ところで何度か本ブログで書いているが、消滅処理のためにもんじゅを専焼炉として使う研究方針はすでに民主党政権下で閣議決定(2012年9月)されていた。上図にその部分を紹介する。だから今回の自民党の発言は政治の意思ではなく原子力関係の産官学の一部からの要望だろう。おそらく自民党政調会長も技術的な整合性(全体として放射能が減るか?)を自分で確認しないままだろう。原発だけではない。福祉も経済も教育も国防も、あらゆる分野について政治がまじめに勉強して力をもたなければ、政治の近くにいるごく一部の少数派のために、引き続き政策も予算も歪められる。原発はその象徴なのだ。原発利権の横暴を止められるかどうかが「政治主導のリトマス試験紙」となる点をこれからも主張していく。

【報道ウォッチ22】TPP妥結も決裂も戦術的に

2014年2月15日 17:22

TPP米の関税撤廃求めているか?.jpg


TPP交渉打開にむけて甘利大臣渡米の報道。実は日本がコメ市場を開放すると米国は年間約3百億円(平推定)のMA(ミニマムアクセス)米の対日輸出機会を失うリスクがある。ならば米国はコメで譲歩する見返りに他の品目・分野を押し込んでMA米と新しい市場の"両獲り"を狙う方が有益となる。最初からそういう戦術という可能性はないか?


●コメ問題は日米間の交渉点のひとつ
以下は"お米"に対する日本人の価値観、食糧自給問題や食管・食糧制度等を巡る国内制度議論、あるいは海外における短粒種ジャポニカ米の生産可能性などの専門的な議論を含まない限りで、純粋にビジネス的な観点のみで述べることを最初にお断りしておく。すべて仮説だから稚拙な間違いがあるかもしれない。ただTPPの交渉現場では、各国各分野の交渉官が多様なオプションを睨みながら落としどころを探り続けているだろうから、稚拙なまま(あるいは乱暴に)、なんでも起こり得ると思っている。その意味で日米間の交渉点(=決裂点)のひとつであろうコメ問題から見える私のTPP交渉への懸念を述べておきたいと思う。

●日本は毎年コメを輸入している
周知のとおり日本は米を輸入している。20年ほど前の1993年(たまたま細川政権)のガットウルグアイラウンド、そして1998年WTOでの関税化容認を経て、現在では日本の高い関税率を認めてもらう代わりに最低限のコメ(ミニマムアクセス米:通称MA米)の輸入を世界のコメ輸出国に対して保証することになっている。(このへんは解釈が間違っていたらご指摘いただきたい)

●米国が最大の輸入元
MA米はいまでも目標数量に基づいて粛々と輸入されている。図に示すとおり、なぜか米国から毎年同じ数量(36万玄米トン)が輸入されており、それは輸入数量全体の約半分にも達し、円ベースでは約300億円(5年平均)にもなる。実は米国がMA米の最大の輸入元になっている。(この点も事実誤認があればご指摘いただきたい)

●自分が米国の立場なら
荒っぽい議論だが、純粋にビジネスライクに考えて、もし私が輸出倍増計画を標榜するオバマ政権のTPP担当者の一人ならば日本のコメ関税を継続させる選択肢を念頭に置く。特例的なMA制度のおかげで毎年約300億円ものコメが日本に売れている。そもそも入札でなぜ米国から毎年同じ数量が調達されているのか。随契の調達に近く競争的とは思えない。もし日本政府が米国のために管理して36万トン買ってくれているとすれば、こんなに優良なクライアントを、TPPで市場開放などさせて、わざわざインド、ベトナム、タイなどの競合相手に渡すリスクは取らない。債務上限法に苦しむ米国からすれば、毎年約300億円の米産者補助金を節約できる効果は無視できない、と私なら思う。

●米国は"両獲り"を狙っている?
以上の前提でさらに想像すると、米国としてはTPP交渉のフロントでコメ市場の関税撤廃要求を粘るだけ粘り、日本が断固拒絶するならば、「断腸の思いで仕方なく」という演出で日本の要求を受け入れ、"仕方なく"関税の継続を認める。その見返りとしてコメ以外の農産品や保険等のサービス分野で徹底的に日本から譲歩を引き出す。そうすれば米国の「MA米の売上維持」と「新しい市場」を"両獲り"することが可能となる。

●「日本をTPPから外せ」の要望
コメ市場の開放要求はバネであり、このバネが強いほどコメ市場の開放要求をテーブルから下した時の見返り(MA米輸出額と新しい市場の規模)は大きくなる。だから粘るだけ粘る、という仮説だ。なにもかもが戦術的だろう。その証拠に昨年2013年末、米国の主要17農業団体が「農業分野で自由化に応じない日本はTPPから除外すべき」という要望書をUSTRに提出し、そのなかに米ライス連合会も含まれていた。矛盾する。米豪FTAでは砂糖と乳製品を例外化し、さらに牛肉のセーフガード導入でオーストラリアの農業に煮え湯を飲ませた米国の農業団体とは思えない要望だが、だからこそ戦術的なのだろう。もし日本がTPPから外れたら、米ライス連合の会員は「MA米の権益」を守れるし、もしコメだけ例外を認めたら、その他の農産物で速やかな自由化を強要できるテコが働き、コメ以外の米国農業団体にもメリットが及ぶかもしれない。

●ベトナムとマレーシアの"待ち"の戦術
日米間の戦術的な緊張関係は日米間以外の交渉参加国にも及んでいる。たとえばベトナムとマレーシアがうまく動いているかもしれない。以前から両国はGDPで8割を占める日米両国の交渉が妥結しない限り、自国の主張を譲歩しないと言っているが、これも戦術的な可能性がある。ベトナムは国営企業が持つ参入規制を根底からは取り払えないし、マレーシアも通称ブミプトラ政策(マレー人を経済的に優遇する国策)の商習慣や利権を急激には変えられないだろう。日本の行政改革と同様、表面では自由化と言うがそう簡単にはいかない。だから米国が戦術的に日本のコメ市場で譲歩するのを待ち、譲歩姿勢を見せるやいなや「ならば我が国にも譲歩を」と主張する機会を待っている、とも考えられる。

●「例外なき関税撤廃」も一枚のカード
冒頭に断ったとおり、以上に述べた仮説が正しいかどうかはわからない。絶対に日本のコメ市場を開放させるという前提で、異なる戦術的な緊張関係や均衡点があるかもしれない。ただ確実なのは当たり前のことだが「すべてが交渉」という点だ。交渉だからお互いに読み合いをしている。日本の交渉官も相手の利得表を読み続けている。「例外なき関税撤廃」というスローガンすら戦術の一部だと私は思っている。本当に例外を許さないか、一部譲歩するかは、プラスマイナスでプラスになる国(マイナス予想が小さくなる国)が一番多くなる妥結点(パレート最適みたいなもの)で決まるだろう。

●TPPより大きな流れで見る必要
だとすれば、それはTPPにおける日米間のコメ問題はおろか、TPP問題そのものを超えるはずだと思っている。私はもともと日中韓をハブとするアジア経済圏の形成を重視する論者だが、そのためにもTPPそのものをひとつのカードにするくらいの発想が必要だと考えている。米国の譲歩を引き出して"緩やかなTPP"を実現するにしても、あるいは日米間TPP交渉決裂であっても、その後にアジア経済圏の成長をいかに日本経済と連動させるか(アジアの内需化)というシナリオプランニングが必要だという認識だ。

●いろいろやってみる
すでにアジアを含む経済連携構想はCEPEA、TPP、FTAAP、RCEPなどが相互に関係しながら様々に提示されてきた。どの構想が一番いいかという原理的な議論は成立しないだろう。すべてを同時進行で動かしながら、決裂したり、再開したりしながら、うまくいくものを探るということだろう。たとえばインドからすれば、日本がTPP参加表明後に日中韓FTAの研究会が動きかけた事実にこそ注目しただろう。「ならばインドも、たとえ中国が存在するとしてもASEAN+6に乗らねば」と思ったかもしれない。そうやって様々な構想が関係しながら動いていく。

●TPPは決裂するにしても戦術的に
巷間心配されているような国民皆保険制度の破壊や遺伝子組み換え食品の非表示化問題など、日本が許容できない事態を起こすような要求を持つならTPP交渉は当然に決裂であるが、しかし重要なのはTPPそのものがカードである、「例外なき関税撤廃」すらもカードである、という姿勢が重要だと言う点を述べておきたい。TPPが本日からの日米間の大臣級折衝で決裂しても、それは戦術的に次につながる決裂でなければ交渉とは言えない。ここは交渉を担う官僚の汗と能力に期待する。

【報道ウォッチ21】 もんじゅ白紙は核燃サイクル白紙ではない

2014年2月 7日 11:33

新エネルギー基本計画案で高速増殖炉「もんじゅ」を白紙との報道。あたかも政府が増殖炉中止との印象を与えて都知事選に影響するが、もんじゅの白紙は核燃料サイクルの白紙を保証しない。もんじゅは単なる原型炉のひとつ。来年度予算でわかる。

●民主党政権末期でも同じことがあった
「もんじゅがなくなる、だから核燃料サイクルもなくなる、ついに政府が決断した」という騒動は2012年9月、民主党政権末期にも起こった。国民に対して、あたかも核燃料サイクルから脱するという印象を与える報道だったが、2012年当時もそれが間違いであることがすぐにわかった。過去のブログ『原発ゼロ』の虚実をご一読いただきたい。

●民主も自民も原発ゼロは言えない
それまでの自民党の利権政治に激しく対抗して政権を奪取した民主党でさえ、電力総連がある限り、利権政治の象徴である原発に対抗することは困難であり、ましてや即時脱原発の公約はほぼ不可能であろう。その証拠に連合東京は細川陣営を応援しないと決めている。電事連に友好的である自民党が原発推進なのは当然であり、その支持を受ける舛添候補が再稼働容認であるのも当然である。

●争点をぼかす報道
即時脱原発 vs 原発推進(再稼働容認)の対立が都知事選の重要な争点のひとつである時に、このような報道は争点をぼかす効果を生む。「政府も原発には慎重じゃないか」という印象を与える効果だ。事実がそうではないことを知ってほしい。ちょうどこれから議論される平成26年度予算案に高速増殖炉及び核燃料サイクル研究開発関連の予算がどれくらい乗るかで事実がわかる。

【報道ウォッチ20】NHKによる原発テーマ変更の要請

2014年2月 6日 22:11

東北発未来塾.jpg


NHK会長がラジオ番組の出演者降板に関して「選挙中なので原発テーマの変更を求めた結果だ」と国会答弁。しかし告示日一週間後のNHK番組「東北発未来塾」で原発がテーマとされ、「原発ゼロは困難」という被災地出身の出演者の意見が放送されている。

●選挙戦真っ只中にNHKは原発をテーマにしている冒頭のNHK会長発言は、NHKラジオ番組に20年以上出演してきた経済学者が、番組直前に「原発をテーマにしないで欲しい」と要請され、自主的に出演を取りやめた件についての参議院予算員会での答弁内容だ。「選挙期間中で、投票行動に影響を与える原発の話題はやめてほしい」という主旨だが、ならば告示日1/23から1週間も経過した1/30に放送された『東北発未来塾「2030年エネルギー未来予想図」』の説明がつかない。都知事選真っ只中の原発をテーマとするNHK番組だ。

●「原発ゼロは困難」はOKで「原発ゼロが正しい」はNG
しかも番組中で「将来的に原発依存度ゼロは困難」という被災地出身の出演者の意見を紹介している。被災地出身の出演者が「原発ゼロは困難」と発言しても良く、一方で経済学者が「原発ゼロが正しい」と発言してはならないと、NHKはどのように決めたのか。経済学者は事前に「経済学的に原発ゼロが正しい」「原発ゼロでも経済成長できる」という主旨の発言予定を番組スタッフ側に伝えていたとされる。NHKのテーマ変更要請は、この発言を止める目的であったことが強く推測できる。
●テーマ性よりも深い問題
ところで私は、以上のような議論とは別の問題も感じる。帰宅困難区域などで収束の見通しもなく、いままさに深刻な環境汚染が進行し、さらに今後の健康被害の顕在化が懸念されており、多くの被災住民から「もう原発はやめてほしい」という声が上がっている今、当事者である被災者から将来の原発依存度を数字で聞き出して、それを全国に放送することは適切だろうか。選挙期間中のテーマ性より、番組構成そのものに問題があるように思う。

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【報道ウォッチ19】 原発ゼロへの責任転嫁こそが経済危機

2014年1月29日 03:26

貿易収支に原発ゼロは関係ない.jpg


「過去最大の貿易収支赤字、主因は原発ゼロ」と報道番組が示唆。しかし財務省貿易統計によれば赤字拡大の主因は日本の経済構造。原発ゼロへの責任転嫁こそが経済危機を生む。

●1979年以来の最高赤字
1月26日、平成25年財務省貿易統計(速報)が公表された。そこには予想されてはいたけれども深刻な数字が報告されている。1979年以降の35年間で貿易収支(輸出―輸入)が最高額の赤字となった。通関ベースで▲11兆4,745億円である。


●原発ゼロは関係ない
上図に示すとおり、輸入数量を対前年で比較するとLNGは0.2%微増でほとんど変わらず、原油にいたっては減少(▲0.6%)している。しかし輸入金額は15%以上も増加。要するに以前のブログ『「4億円の国富が逃げる」は間違い』でも予想したとおり、原発ゼロによる燃料輸入増加はもう止まっており、前年と同規模の数量を高く買っているのが実態。だから燃料費増加の原因はアベノミクスによる円安効果と原油CIF価格の上昇しかなく、2012年から2013年の収支悪化で原発ゼロの関係は極めて薄い。

●「原発ゼロのせいで価格が上昇」もない
それでも原発ゼロが原因だという説がある。原発ゼロの影響により日本が原油やガスを買い増すから市場で単価が高くなるという説だ。しかし上図でわかるとおり、価格上昇は3.11前年の2010年から続いている。米国QE(量的緩和)で溢れ出てくる余剰資金が原油市場に流入すれば当然そうなる。加えてドル建ての燃料費は円安(2012年の約80円平均から2013年の約100円平均)で25%も支払金額が上昇する。3.11以前から続く価格の上昇に加えて、円安の影響が非常に大きいことは明白だ。重ねて2012年から2013年の収支悪化で原発ゼロの関係は極めて薄い。

●経常収支マイナスが危険
政府はこの貿易収支悪化の責任を政局がらみで原発ゼロに転嫁する余裕はないはずだ。一刻も早く輸出または所得収支(海外から受け取る配当や利子等)の拡大を伴う成長戦略を策定し成功させる必要があるが、いまのところ筋道は見えない。万一、経常収支マイナスにでもなれば何が起こるかわからない。

●円安でも輸出は増えない構造
ここ数年の貿易収支悪化が示す通り、生産拠点の海外移転等により、円安だからといって輸出数量が以前ほど増えない経済構造へと深化しつつある。経常収支マイナスが外資の引き揚げによって単に円安と高金利だけを生むとしたら危険だ。原発ゼロを貿易収支悪化の主因と決めつけることは、間違えている以上に、日本経済の構造問題を放置することにつながる。原発ゼロへの責任転嫁は経済危機に直結する。

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