8.9円~の間違い
2012年3月 6日 20:20
●原子力コストは本当に安いのか?
昨日(3/5)は枝野幸男経産大臣に委員会質問いたしました。テーマは原子力コストの問題点です。未来のエネルギーベストミックス(原子力、火力、水力、再生エネ等の最適な組み合わせ)を検討するうえで必要となる「電源種別ごとの発電コスト」が政府により図1のように推定されています。2030年において原子力コストが最も低いように見えます。これが大問題です。委員会では、この図を公表すること自体の問題に加えて、原子力コストが「極めて高コスト」の電源であることを主張いたしました。
●下限値のワナ
図の大きな問題は「~」という表記(図2)です。たとえば石炭火力であれば10.3~10.6のように推定の下限と上限が示されていますが、原子力のみ8.9~と下限値しか示していません。後述のとおり、上限はとてつもなく大きな数字となる可能性があるのですが、政府としては「わからない」から下限値のみ示したという理屈です。これも後述する通り、下限値は広域除染や大都市圏損害を見積もらない「過度に低い数字」であり、結果として他の電源に比して棒グラフの長さが一番短くなっているのです。このままでは、国民各層に「やっぱり原子力は一番低コスト」という間違った認識が広がってしまいます。
●8.9円の間違いを指摘
そこで枝野大臣に向けて、"8.9円~"がいかに問題のある数字であるかを質問したのです。"安価な原発"という強烈なミスリードを生じかねません。8.9円を推定したのは政府のエネルギー・環境会議のコスト等検証委員会であり、昨年末(12/19)に提示した「コスト等検証委員会報告書」(以下、報告書)のなかで公表されました。本報告書のなかで、原子力コストの構成=①資本費(建設費など)+②運転維持費+③核燃サイクル費+④追加的安全対策費+⑤政策経費+⑥事故リスク対応費の6つのコスト構成が示されました。私は、①資本費、②運転維持費、⑤政策経費、⑥事故リスク対応費の4つのコストについて独自の推定を行いました。
●資本費の間違い
資本費に原発の建設コストが含まれています。報告書では2010年と2030年で国内建設コストに変化がないとされています。(図3)これが大きな間違いです。欧米の事例では単体の原発施設の当初予算が最終的には1.5倍~3倍に膨れ上がっています。(図4)また全米の原発について1970年~2000年の30年間で見ると、1979年のスリーマイル事故以来、安全対策等のために建設コストは上昇を続けています。Cooper氏らによる最近(2010年)の研究です。(図5)日本は3.11を経験したのですから、今後の原発建設コストが上昇すると見るのは当然の推論です。
●資本費だけで3.7円の増加
以上のデータに基づいて資本費を再計算しました。直近5つの国内原発(女川3、浜岡5、東通1、志賀2、泊3)の平均建設コストをCooper回帰直線に代入して2030年の建設コストを計算すると1基約7,200億円(120万kW換算)になりました。この結果、1kWhあたりの原子力コストは報告書の2.5円から4.3円へと上昇し、資本費に比例して上昇する運転維持費は3.1円から5.2円へと上昇します。資本費だけで3.7円の増加となりました。
(図6)
●政策経費の間違い
政策経費にも問題があります。政策経費には電源立地地域対策交付金が含まれています。報告書は平成23年度予算の1,278億円を用いており、2030年も同額であるとしています。そんな推定は認められません。周知のとおりEPZ(緊急時計画区域)が30kmに改訂されようとしています。原発事故の被害想定範囲を拡大すれば、交付金を受給する関係市町村が増加するのは必至です。確かに交付金の算定式は出力や電力量に依存し、人口とは関係ありませんが、交付金の根拠法である発電用施設周辺地域整備法で「地域住民の福祉の向上」が目的と定められており(図7)、対象はあくまでも住民なのです。また周辺の地域の"周辺"について確たる定義はありません。自治体間で相互に協議して交付金を受給する関係自治体が決められているのです。法定の"周辺"が不定である以上、甚大事故を経て関係自治体が増えるのは自明です。
●EPZ30kmで2.5倍に
国内54基の原発施設に関して、すでに現在の交付金を受給している市町村の人口とEPZ30km圏内の人口を比較(図8)すると、前者が約330万人で後者が約830万人。約2.5倍となります。したがって交付金は1,278億円に人口比を掛けて3,195億円と推定されます。原発コストとしては0.7円の増加となります。
●事故リスク対応費用の間違い
事故リスク対応費用の推定は最も大きな間違いを含んでいます。報告書はモデルプラントで考えるという前提なのに、なぜか福島第一を前提にして5.8兆円としました。しかも生命・人体損害、広域除染、中間貯蔵・最終処分等という極めて大きなコストを要するリスク要素を"わからないから"という一言で除外しました。いわゆる積算落ちです。だから、8・9円は下限値と呼べるものではありません。"下限値の計算途中"に過ぎないのです。
●ひと桁違う事故リスク
大都市圏影響という観点だけで言えば、福島第一よりも影響の大きな原発を認めざるをえません。琵琶湖を影響圏とする福井県の原発や、東京を影響圏とする浜岡原発であれば、福島第一で推定された5.8兆円ではすみません。実はすでに下図(図10)のような研究があり、原発事故リスクの過小評価に警鐘が鳴らされています。これらの研究から事故リスク対応費用を5.8兆円のひとケタ違いの50兆円と推定しました。これだけで原子力コストは4.1円の増加です。
●下限値は報告書の2倍になる
以上を合計して、私の推定原子力コストは政府報告書の約2倍となり、8.9円が17.4円(+8.5円)となります。つまり私の推定では17.4円が下限値なのです。本来ならば核燃サイクルの増額(感度3倍分析および再処理施設そのものの事故・除染を含む)、さらにストレステストで問題となる追加的安全対策費の増額分を勘案しなければなりませんから、"17.4円~"であり、上限は容易に20円に超えるのです。核燃サイクルのバックエンドに割引率を使わない場合は30円代も想定できます。繰り返しますが、決して"8.9円~"ではありません。
●大臣答弁「8.9円はあまり意味をもたない」
以上の原子力コストの推定を示したうえで行った私の質問に対して、枝野大臣から次のような答弁がありました。
(大臣答弁)「(8.9円が)何か中心値や予測値のように巷間言われているとすれば、これは強く否定をしなきゃいけないだろう」
(大臣答弁)「原発の今後のコストが安いということを前提にエネルギー基本計画を立てるつもりは全くありません」
(大臣答弁)「少なくとも原発については、(中略)その最低の線の金額が余り意味をもつものではないというのは、そのとおり」
●大臣答弁「(原発依存度ゼロの)可能性を否定しない」
私は最後に次のように質問しました。
(平質問)「エネルギー政策をゼロベースで見直すうえで、原子力の依存度がゼロから100、すべての可能性があるというふうにお考えか」
(枝野大臣答弁)「最終的にゼロにするのか、依存は限りなくゼロにするけれども若干は残すのか、これは総合エネルギー調査会でもさまざまな御議論があるというふうに承知をしておりますが、(依存度ゼロが)選択肢、可能性のなかにあるのは否定しません」
今回の委員会質問のなかで最も重要な答弁です。「依存度ゼロを否定しない」のです。
●ぜひ映像でご確認ください
国会のリンクで質問の一部始終を見ることができます。30分の質問時間で、最後の5分間では「3歳未満児の放射能に対する食材管理」についても質問しております。原子力政策の今後について政府が何を考え、一人の議員として私がどう考えているかをみなさんにお知らせする重要な国政報告だと思っています。ぜひ一度ご覧ください。
(注意)上のリンクで見えない方は、国会のインターネット中継のホームページからご覧ください。http://www.shugiintv.go.jp/ ※「日本語」をクリックすると画面が変わります。そこで、発言者に「平智之」を入れて「予算委員会第7分科会」の横の模様をクリックすると中継がご覧になれます。

